AI関連の最新ニュースをピックアップ
韓国のAI半導体スタートアップ Mobilint(韓国のエッジAI半導体・NPU開発スタートアップ) は2026年10月22日、韓国産業通商資源部が推進する総額8002億ウォン(約6億600万米ドル)規模の国家プロジェクト「K-On-Device AI半導体技術開発事業」において、ヒューマノイドロボット向けオンデバイスAIチップ(NPU)開発の主幹研究機関に選定された。クラウド通信を介さずロボット本体側で20ミリ秒(50Hz)周期のリアルタイム推論を完結させる専用シリコンアーキテクチャの確立を主導する。
韓国産業技術評価企画院(KEIT)が管理する本プログラムは、2026年から2030年にかけて「自動車」「IoT・スマート家電」「機械・ロボット」「防衛」の4大重点領域において、合計10分野の国産オンデバイスAI半導体を開発・実用化する大型国家戦略事業である。
2026年6月に発足した産学官連携体「M.AX Alliance」では、サムスン電子がファウンドリ(受託製造)として参画するほか、SynopsysやCadenceなどのEDA企業、現代自動車やLGエレクトロニクス、斗山ロボティクス、韓国航空宇宙産業(KAI)などが需要側のパートナー企業として名を連ねている。国内ファブレス企業が設計からウェハー製造に至る過程で直面する生産ボトルネックを解消する体制が整えられた。
Mobilintはこの中でロボット領域の主幹組織に指定され、ヒューマノイドロボットに特化したNPUチップ自体の設計、専用コンパイラ、実行環境ソフトウェアスタック、ロボット内部への実装モジュールに至る包括的な開発を担当する。
ヒューマノイドロボットが周囲環境を認識して安全かつ滑らかに行動するためには、視覚情報や言語指示を関節運動に変換する VLAモデル(視覚と言語からロボットの身体動作コマンドを直接生成するモデル)(Vision-Language-Action)を極めて高速に推論する必要がある。
実世界でロボットが人や障害物を避けて安全に作業するには、約50Hz(20ミリ秒に1回)の制御ループ周期が求められる。しかし、クラウドサーバーを経由する通信では100〜300ミリ秒程度の遅延(往復時間)が発生し、通信途絶時には制御信号そのものが途絶える。物理空間で稼働するロボットにとって、クラウド依存の遅延やネットワーク遮断は転倒や衝突といった重大な安全障害を引き起こす原因となる。
| 項目 | クラウド推論依存のロボット | オンデバイス専用NPU搭載(Mobilint) |
|---|---|---|
| 制御遅延 | 100〜300ミリ秒(通信往復) | 20ミリ秒以内(50Hz固定周期) |
| 通信途絶時の挙動 | 制御信号停止・動作破綻のリスク | 完全自律で安全停止・回避可能 |
| 消費電力・発熱 | 外部任せだが受信処理が必要 | 3W未満(REGULUS SoCは10 TOPS超) |
| 安全制御の優先度 | 通信パケット単位で均一 | シリコンレベルで衝突回避タスクを優先割当 |
Mobilintの既存SoC「REGULUS」は、3W未満の超低消費電力で10 TOPS超の推論性能を達成している。同社はハードウェア構成とコンパイラを一体設計することで、VLAモデル特有の2段階パイプラインに最適化し、姿勢制御などの安全最優先タスクに計算資源を瞬時に優先配分するシリコンレベルのスケジューリングを実現している。
なお、チップベンダーが提示するTOPS(秒間演算回数)指標は、INT8やINT4、FP16など採用精度によって実効値が大きく異なるため、比較検証には実環境やMLPerfなどの統一指標が必要とされる。
開発されるオンデバイスNPUは、LGエレクトロニクスがCES 2026で公開した家庭用双腕自律ロボットプラットフォーム(LG CLOiDなど)に順次組み込まれ、実環境での検証が行われる。
この実証には、AIモデル最適化の専門企業であるNota Inc.も参加している。NotaはVLAモデルをMobilintのNPUの演算容量に合わせて軽量化・構造圧縮し、家庭内でのリアルタイム動作を担保する役割を担う。外部通信に一切依存せず自律的に動くヒューマノイドの実現を目指している。
調査会社Interact Analysisによると、ヒューマノイドロボット1体には1000〜2000個もの半導体チップが使われ、ロボットの製造原価(BOM)に占める半導体の割合は2025年の約10%から2031年には21.3%まで拡大すると予測されている。
ルネサス エレクトロニクスが物理AI部門を新設し、米Micronがロボット専用メモリ開発を進めるなど、フィジカルAIの制御中枢を巡る国際競争は過熱している。韓国が自国のファブレスとサムスンの受託製造能力を結集して国家プロジェクトとして取り組む背景には、将来の家庭や工場で稼働する自律ロボットの頭脳を外国産半導体に握られる安全保障上のリスクを回避する強い狙いがあるとみられる。
引用元:Tech Times