AIワークロードの全ライフサイクルを支える専用階層を整備
中国Alibaba Cloud(アリババグループのクラウドコンピューティング部門)は、年次テクノロジーカンファレンス「Apsara Conference 2026」において、AIワークロードの各処理段階に特化した5つの専用ストレージ製品を発表した。従来の汎用クラウドストレージが抱えていたI/Oボトルネックや高いデータ転送コストを解消し、モデルの学習から大規模推論、データ検索、自律エージェントの実行までを最適化する基盤を提供する。

引用元:Alibaba Cloud Community
発表された5つの専用ストレージと技術的要点
今回発表されたポートフォリオは、大規模言語モデル(LLM)の運用課題に直接対応する新製品と機能強化で構成されている。
- KVCacheStore(推論向け専用キャッシュストレージ): GPUメモリとリモート共有ストレージの中間に位置する、業界初のパブリッククラウド「G3.5階層」ストレージ。1,000億件規模のKVキャッシュ(LLM推論時に過去の入力トークン計算結果を保持して再計算を防ぐメモリ領域)エントリを保持し、有効キャッシュウィンドウを900%拡大する。Tair KVCMとの連携により初回トークン遅延(ファーストトークンレイテンシ)を54%削減し、推論コストを50%低減(有効キャッシュヒット率99%)させる。
- OSS Tables(マルチモダリティ統合オブジェクトストレージ): オブジェクト、ベクトルインデックス、構造化テーブルストレージを同一バケット内に統合。個別のベクターデータベース構築やETL同期が不要となり、RAG(検索拡張生成。外部知識ベースから関連文書を取得して生成AIの回答精度を高める手法)パイプラインのアーキテクチャを大幅に簡素化する。
- 新世代CPFS(AI学習向け並列ファイルシステム): 単一ファイルシステムあたり最大100TB/sの集約スループットと100PiBの容量(従来比5倍)を実現。数億IOPSを誇り、モデルのチェックポイント読み込みによる起動時間を50%短縮、GPUピーク稼働率を30%向上させつつ、AIストレージコストを69%削減する。
- AgenticFS(エージェントサンドボックス向けファイル共有): コンテナ(ACS)やサーバーレス(FC)上で動作する数千規模の短寿命エージェント向けストレージ。RAMポリシーによるエージェント単位のアクセス制御とAgentCore連携を備える。
- 拡張EBS(データ前処理向けブロックストレージ): トークン化やデータクレンジングなどのI/O集中型前処理向けにスループットとIOPSを強化。エージェントによる大量並行マウントに対応する。
パイプライン各段階における役割とアーキテクチャ比較
アリババクラウドが提案するAIデータフローは、前処理からエージェント実行まで一貫して設計されている。
| パイプライン工程 | 採用ストレージ | 主な機能強化 | もたらされる具体的な効果 |
|---|
| データ前処理 | 拡張EBS | 前処理最適化IOPS・並行マウント | クレンジング・トークン化処理時間の短縮 |
| データ管理・検索 | OSS Tables | オブジェクト+ベクトル+テーブル統合 | ベクターDBとETL廃止によるTCO削減 |
| モデル学習 | 新世代CPFS | 100TB/sスループット・100PiB容量 | GPU待機時間削減(稼働率+30%)、コスト-69% |
| モデル推論 | KVCacheStore | G3.5階層、長文脈KVキャッシュ保持 | 初回トークン遅延-54%、トークンコスト-50% |
| エージェント実行 | AgenticFS | 短寿命インスタンス向けPOSIX共有 | マルチテナント分離と認証制御の標準化 |
日本の開発者・事業者への影響と導入展望
編集部注: 今回の専用ストレージポートフォリオは、長文脈推論の急増に伴うGPUメモリ逼迫や、RAGシステムの運用負担増に直面している開発現場にとって直接的な解決策となる。特にOSS TablesによるベクターDBの排除や、KVCacheStoreによる再計算コストの半減は、クラウドインフラ費用を大きく圧縮する可能性がある。日本企業がAlibaba Cloudの国際リージョン(東京リージョン等)でこれら専用サービスを活用できる時期と提供条件が注目される。
引用元:Alibaba Cloud Community