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中国のインターネット規制当局である国家インターネット情報弁公室(中国のインターネットおよびデータ安全規制を統括する行政機関)(CAC)が、中国を代表するAIスタートアップであるDeepSeek(中国発のオープンウェイトモデルを開発するAI企業)およびMoonshot AI(対話型AIサービスKimiを手掛ける中国のAIスタートアップ)(月之暗面)の2社に対し、データセキュリティに関する本格調査に着手したことが2026年9月22日、テクノロジーメディア「ジ・インフォメーション」の報道(ブルームバーグ配信)により明らかになった。米Anthropic(安全性重視のAIモデルを開発する米国企業)が今月公表した報告書において、両社などが自社サービスへの質問データを無断で同社の「Claude(Anthropicが提供する高度な推論対応AIモデル)」へルーティングし、モデル訓練に転用(蒸留)していたと指摘したことを受けた動きとみられる。
報道によると、国家インターネット情報弁公室(CAC)はDeepSeekおよびMoonshot AIのオフィスに直接職員を派遣し、両社の経営幹部やエンジニアなどの従業員に対する事情聴取を実施した。調査の焦点は、両社が外部の基盤モデルを利用する過程で、中国のデータセキュリティ関連法に違反した事実があるか、またその違反がどの程度深刻なものであるかの確認にある。
中国政府側は、米国企業が運用・管理するAI基盤を経由してデータを処理したことにより、中国の軍や警察などの法執行機関、あるいは重要国内企業に関する機密データが米国側に流出した可能性を強く警戒している。現時点でCAC、DeepSeek、Moonshot AIはいずれも取材に対して公式なコメントを出していない。
本調査の発端となったのは、米Anthropicが今月発表したセキュリティ調査報告書である。同報告書の中でAnthropicは、Moonshot AIやDeepSeekなどの中国系AI企業が、自社チャットボットを利用するエンドユーザーに対して開示することなく、ユーザーからの入力データをAnthropicのClaude APIへ転送・処理させていた実態を指摘した。
さらにAnthropicは、Moonshot AIが「蒸留(高性能モデルの出力を訓練データとして用い別の小型・後続モデルを学習させる手法)(Distillation)」と呼ばれる技術を用い、Claudeの生成した回答データを自社独自のモデルやソフトウェアの性能向上に組織的に利用していたと主張している。米国の安全保障当局も、中国の主要AI企業が蒸留手法を通じて米国の最先端AIが持つ固有の知識や推論能力を組織的に抽出しているとの警戒感を強めていた。
本事案は、米国側が主張する「知的財産・モデル出力の無断利用(蒸留)」と、中国側が警戒する「国家安全保障上の機密データ流出」という、双方向の安全保障リスクが同時に表面化した事例である。
| 観点 | 米国側(Anthropic・米安保当局)の主張 | 中国側(CAC・中国政府)の懸念 |
|---|---|---|
| 主たる懸念 | 最先端モデル(Claude)からの無断蒸留による知財抽出 | 米国企業サーバーへの軍・警察・企業データの流出 |
| 根拠・背景 | 利用規約違反および自社AI技術の組織的流用 | 中国データセキュリティ法違反および国家機密保護 |
| 調査・対抗手段 | アカウント制限や調査報告書の公表を通じた告発 | CACによる現地オフィス立ち入り・幹部従業員への聴取 |
本件は、グローバルなAI APIを組み合わせて自社サービスやモデルを開発する国内外の事業者にとっても重要な示唆を含んでいる。サードパーティ製AIモデルへユーザー入力を転送する際、利用規約やプライバシーポリシーにおける明示的合意の有無、および国境を越えたデータ移転(クロスボーダーデータ移転)に伴う各国の法規制遵守が、これまで以上に厳格に問われる局面に入ったことを意味する。
ジ・インフォメーションの報道は事情に詳しい関係者の証言に基づくものであり、CACによる正式な処分決定や行政指導の内容は公表されていない。また、DeepSeekおよびMoonshot AIがどの程度の規模でデータ転送や蒸留を行っていたのか、両社からの公式な事実確認や反論についても今後の動向を注視する必要がある。
米中間のAI覇権争いは、これまで最先端半導体の輸出規制やクラウド利用の制限といったハードウェア・計算資源中心の対立として捉えられてきた。しかし今回の調査は、モデルの入出力データそのものが「国家安全保障上の機密」と「知的所有権の防衛」という二重の規制対象となったことを示している。中国企業が性能向上を急ぐあまり米国のフロンティアモデルをバックエンドや蒸留元として依存していた構図が浮き彫りになる一方、中国当局自身も自国データの流出を防ぐために国内スタートアップへの監視を強化せざるを得ないジレンマに直面している。今後はモデルの学習履歴や推論データの追跡可能性(トレーサビリティ)の確保が、世界的な規制対応の要件となる可能性が高い。