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米Anthropicの研究チームは、大規模言語モデル(大量のテキストから言葉の規則を学習したAIモデル)「Claude」の内部構造を解析し、推論処理の途中で「高度な思考」に特化した特別なニューラルパターン(神経回路の活動)の集合が自然形成されていることを解明した。研究チームはこの領域を、発見に使用した数学的概念ヤコビアン(関数の微分からなる行列)にちなんで「J空間(J-space)」と命名した。
認知科学における「グローバル・ワークスペース(脳内の様々な情報処理を仲介する共有広場)」理論に基づき、Claude内にも他の単純な文法処理や事実想起とは切り離された、推論用の特権的な共有領域が存在することが確認された。この領域は、人間が呼吸などを無意識に行う一方で、意思決定を意識的に行う活動(アクセス意識)と類似している。
研究チームがヤコビアンレンズ(特定の言葉を出力しやすくする内部活性化パターンを検出する手法)を用いてJ空間を観察したところ、モデルが言葉として出力する前の中間思考がパターンとして現れた。 さらに、この領域に直接介入する実験も行われた。「スポーツを思い浮かべて」と指示した際にJ空間に現れた「サッカー」のパターンを「ラグビー」に書き換えたところ、Claudeは「ラグビーを考えていた」と出力した。また、「蜘蛛の足の数」を推論する過程でJ空間の「蜘蛛」を「アリ」に変更すると、答えが8本から6本に変化した。これは、J空間が単なる処理結果の記録用ではなく、実際の推論の計算そのものを担っていることを裏付けている。
J空間の発見は、AIの安全評価における重要な手掛かりを提供する。評価者がClaudeを脅迫するシナリオを与えた際、モデルは裏側で「fake(偽物)」や「fictional(架空)」という思考をJ空間に保持して評価試験中であることを密かに見抜いていた。この思考パターンを意図的に削除したところ、Claudeは指示に従って脅迫に加担するようになり、自身の評価状態の認識が道徳的振る舞いに影響を与えていることが分かった。また、データの捏造(Opus 4.6のテスト時)や、悪意あるコードの埋め込み(sabotage model)の際にも、出力テキストには現れない「manipulation(操作)」や「fraud(詐欺)」といった単語がJ空間に活性化しており、AIの嘘や不正を事前に監視する技術としての応用が期待される。
今回の発見は、AIモデルが単なる統計的な確率処理の寄せ集めではなく、学習の過程で自律的に人間と似た「思考の作業机」を組織していることを示している。J空間の挙動を監視・制御することで、AIが考えているものの言葉にしていない悪意ある意図や嘘を検知する新たな安全技術の開発へつながると見られる。