引用元 :monoist.itmedia.co.jp
汎用原子レベルシミュレーター(物質を構成する原子の振る舞いを計算・再現するシステム)「Matlantis(マトランティス)」を提供するPreferred Computational Chemistry(PFCC)は、2026年5月27日、自然言語の指示だけで材料シミュレーションプログラムの作成や編集、結果の読み取りや解釈を行える「AIエージェント連携機能」の提供を開始したと発表しました。この新機能は、Anthropicの「Claude Code」やOpenAIの「Codex」といった最先端の対話型AIエージェントを、Matlantisのターミナル環境からシームレスに起動・操作できるようにするもので、近日中には専用のインストーラも提供される予定です。
1. プログラミングの壁を解消する連携アプローチ
計算化学(コンピュータを用いて化学的な現象を解明・予測する分野)は材料開発におけるミクロな現象の解明に不可欠ですが、専門知識(特定の分野における専門的な知見であるドメイン知識、計算化学理論、プログラミング技術など)や動作環境の構築が障壁となっていました。
これまでの課題と進展 : Matlantisは、量子化学計算(物質の性質を電子の動きから解き明かす超精密な計算手法)を高速かつ高精度に置き換える独自のAIモデル「PFP(Preferred Potential)」をクラウド環境で提供することで、インフラ構築の手間などを解消してきました。しかし、新しい解析や自社固有のシステムを構築する際にはPythonによるコーディング(プログラムのコードを書く作業)が必要で、実験系研究者にとっては学習のハードルが残っていました。
AIエージェントによる自動生成 : 今回の機能連携により、ユーザーはターミナル上のAIエージェントに自然言語で指示を出すだけで、シミュレーションプログラムの作成・編集が行えるようになります。
2. 専門知識集「Skills」のGitHub公開
Matlantis固有の知識の学習 : AIエージェントが元々持つ汎用的な知識に加え、Matlantis独自の機能や仕様、計算ワークフロー(構造緩和:原子の配列を最も安定した位置に調整する作業、分子動力学:時間経過による原子の運動をシミュレーションする手法、反応経路探索、結晶構造予測、可視化、外部データベースからの構造取得など)をカバーする専用の知識集「Skills」が開発されました。
専門的出力の最適化 : この「Skills」は先行してGitHub上で公開されており、これをAIエージェントに読み込ませることで、研究者の目的に適したより精度の高いシミュレーションコードの作成や結果解釈の出力が可能になります。
3. 研究開発プロセスへの期待される効果
実験系研究者の支援 : プログラミングや計算化学の専門知識が不十分でも、AIとの自然な対話を通じてシミュレーションを実行し、ミクロ現象の可視化や解釈を自ら進められるようになります。
計算化学専門研究者の効率化 : コーディングにかかる時間を削減し、論文の再現実装やスクリーニング、可視化などの検証サイクルを劇的に高速化させることができます。
研究マネジメント側の変革 : 組織全体の試行サイクルが短縮され、これまでは時間的制約などで見送られていた研究テーマに対しても「まずはシミュレーションで検証する」という迅速なアプローチが可能になり、偶発的な発見(セレンディピティ)の創出が期待されます。
「Matlantis」と「Claude Code」や「Codex」といったAIエージェントのシームレスな融合は、材料開発における「AI for Science(科学研究の発見プロセスに人工知能を適用するアプローチ)」の実装例として極めて重要です。計算環境の構築に続き、プログラミングや専門コマンド習得の壁を取り除くことで、これまで一部の専門家にとどまっていた計算シミュレーションの恩恵を実験系研究者を含む組織全体へ民主化します。
編集部注: これにより、材料科学分野のR&D(研究開発)イノベーションがさらに加速することが期待されます。