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中国 Alibaba(中国のEC・クラウド大手企業) の共同創業者兼会長を務める Joe Tsai(Alibaba共同創業者兼現会長のジョー・ツァイ氏) 氏は、イタリア・トリノで開催されたテックカンファレンス「Wave by Vento」に登壇し、欧州が「AI主権(他国に依存せず自国のデータや基盤でAIを制御・運用する自立性)(AI sovereignty)」を確立するための唯一のアプローチはオープンソースAIの活用であると語りました。公開対談セッションの中で、他国技術への依存がもたらす地政学的リスクを警告するとともに、欧州産業界が取るべき具体策を提言しました。

ツァイ氏は、政権交代や国際情勢の急変によって他国のクラウドやAIサービスが遮断される懸念に触れ、「いかなる国も他国の技術を完全に信用すべきではない」と指摘しました。このリスクは米国製技術にも中国製技術にも同様に当てはまるため、単一の供給元に依存しない複数の選択肢の確保が不可欠だと論じています。
対談相手を務めたLingotto Innovationのジェームズ・アンダーソン氏の質問に対し、ツァイ氏はAlibaba自体の戦略転換についても明らかにしました。1999年の創業から拡大を続ける中で一時は集中を欠いたものの、2023年に事業領域を「eコマース」と、計算基盤からモデル・アプリケーションまでを包括する「フルスタックAI」の2軸へと絞り込んだと述べました。
Alibabaはeコマース事業が生み出す年間約250億ドルのフリーキャッシュフローをAI事業の原資として投じており、計算インフラへの設備投資は過去3年間で毎年倍増しています。米国のハイパースケーラー各社が今年投じる合計約1兆ドル規模には及ばないものの、チップ供給規制などの制約があるからこそ、モデル設計や推論効率の向上、オープンソース化と研究論文の公開を加速させていると語りました。
ツァイ氏が欧州のミッシングピースとして指摘したのは、計算能力(コンピュート基盤)の不足です。自国のインフラ上でモデルを学習・実行するためには、欧州自身がデータセンターの建設に真剣に取り組む必要があると訴えました(Alibaba Cloud自身も今年6月にフランスでデータセンターを開設しています)。
この構図は、製造業や現場の暗黙知データを豊富に持つ日本の産業界にとっても共通の示唆を与えます。米国の特定ハイパースケーラーのクローズドAPIに基幹業務を全面委ねた場合、将来的な地政学的分断やサービス停止への耐性が脆弱になる懸念があります。自社の重要データを守りつつ自律性を保つ手段として、オープンウェイトモデルを自社管理インフラで追加学習して運用するハイブリッドな構成は、日本企業にとっても現実的な防衛策となります。
ツァイ氏の今回の発言の背景には、欧州市場においてAlibabaのクラウドインフラやオープンモデルのプレゼンスを高めたいという思惑もうかがえます。しかし、欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド総裁が自前AIの欠落による遮断リスクを警告していたこととも符合しており、「技術主権」を求める欧州の政治的・産業的要請とオープンソースAIの親和性は極めて高いといえます。
ツァイ氏が予見するように、今後5年間でAIがインターネットのようにあらゆるビジネスの前提となり意識されなくなる時代を迎えるからこそ、基盤となる知能とインフラの自立性をどこまで確保できるかが、国家や企業の長期的な競争力を左右することになります。